令和7年度の電子商取引調査から読む、国内EC市場の現在地と越境ECで利益を残す条件
ニュースの概要
経済産業省は、令和7年度の電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめて公表しました。この調査は、企業と消費者の間(BtoC)や企業同士(BtoB)で行われるネット取引の規模と、商取引全体に占めるネット経由の割合(EC化率)を毎年測るものです。日本と海外との間で行われる越境ECの規模も推計しており、物販、サービス、デジタルの分野別に市場の動きが整理されています。政府が公式に示す数字として、民間の調査や企業の事業計画で広く参照されます。物価高や人手不足が続く中で、ECが日本の商取引にどこまで根づいたかを確かめる材料になります。
引用元: 令和7年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました(経済産業省)
分析・見解
公的統計の価値は、同じ物差しで測り続けること
この調査の値打ちは、数字の大きさより「同じ方法で毎年測り続けている」ことにある。民間の推計は対象や定義がまちまちで、並べても比べられない。経産省の調査は、物販・サービス・デジタルの三分野を、企業向けと消費者向けの両方で同じ枠組みから追える。
意外に知られていないのは、金額の規模である。前年度の公表では、消費者向けが約26兆円、企業間取引が約500兆円規模だった。話題になるのは前者でも、商売の本体は後者にある。BtoB(=企業同士の取引)のEC化は、発注書や請求書の電子化と一体で進むため、目立たないが着実に広がる。
物販のEC化率は、なお1割に届かない
店頭で買う習慣は根強い。物販のEC化率は、前年度で約9.8%だった。米国は1割台半ば、中国は2割台とされ、日本は先進国の中では控えめな水準である。
伸びが鈍っているとの見方もあるが、筆者はむしろ「巡航速度に入った」と読む。コロナ禍の特需が終わり、食品や日用品のような生活に近い分野が、少しずつネットへ移っている段階だ。急成長の物語から、地道な改善を積み重ねる競争へと局面が変わった。
越境ECは円安と関税ルールに振り回される
海外との取引は、為替と制度の影響を強く受ける。円安は日本の商品を海外で安く見せ、訪日客に人気の商品を越境ECにつなげる追い風になった。一方で米国は2025年に少額貨物の免税を見直し、中国発の低価格品に対する目も厳しくなった。
つまり、越境ECの数字は商品力だけでは決まらない。送料、関税、返品の仕組みが利益を左右する。「売れた」という数字より、「手元にいくら残ったか」を見る必要がある。
平均値の裏で進む、大手と小規模の二極化
全体の伸び率が穏やかでも、中身は一様ではない。大手モールは広告力と配送網の優位を広げ、出店者の負担も増えている。自社サイトを持つ小規模事業者は、集客コストの上昇に苦しむ。
そこで効いてくるのが、特定の商品や客層に絞る戦略である。平均に合わせるのではなく、平均から外れて伸びている分野を探すほうが、実務では役に立つ。公的統計は、その探し方の地図として使える。
ビジネスへの影響
自社の数字を、公表された市場の伸びと並べる
まず、自社のEC売上の伸び率を、分野別の市場の伸びと比べてみてほしい。市場より速く伸びていれば、商品や集客が効いている。遅ければ、市場に取り残されている可能性がある。経営会議の資料に公的データを一行添えるだけで、議論は感覚から事実へ移る。
越境は「利益が残る条件」から逆算する
海外販売を検討するなら、売上目標より先に、関税・送料・決済手数料・返品率を試算したい。一件あたりの利益がマイナスなら、件数を増やしても傷が広がるだけである。小さく始め、売れた商品だけを伸ばす進め方が堅実だ。物流や決済の選び方は、当サイトの物流・決済の解説も参考になる。
来期の予算は、新規集客より継続購入に寄せる
広告費が上がる局面では、新規客を一人獲得するコストも上がる。そこで、初回購入者に二回目を買ってもらう仕組みへ予算を移したい。会員化、定期便、購入後のメール案内など、地味な施策ほど効果が安定する。
最後に、調査の詳しい内訳が確認できたら、自社の商材に近い分野だけを読み込み、来期計画の前提を更新してほしい。市場全体の数字に一喜一憂するより、自社の戦う分野の数字を見るほうが、判断を誤りにくい。