ICHIGOの内製化戦略に学ぶ、越境ECで品質とコストを両立する方法
ニュースの概要
日本のお菓子を海外へ定期配送する越境ECのICHIGOで、近本あゆみCEOが10月5日開催の「越境EC EXPO 2026」に登壇し、成長戦略を語った。同社は業務を外部に任せず自社で担う内製化を進め、そこで浮いたコストを商品の品質向上に回している。これまでに187の国・地域へ届けた実績があり、累計出荷は約400万個に達する。一方で顧客の約7割は米国が占める。物流環境が変わる中でも、社内体制の強化や運用の見直しで対応しているという。規模の拡大と品質の維持をどう両立させるかを示す事例として、注目に値する。
引用元: ICHIGO、内製化と商品品質を軸に越境ECを拡大(Japan Net Keizai Shimbun)
分析・見解
内製化で浮いた費用を商品に回す、という発想の転換
多くの越境ECは、梱包や出荷、問い合わせ対応を外部業者に任せる。立ち上げが早いからだ。しかし外注は、出荷量が増えるほど手数料も増える。しかも現場の細かな工夫が、自社に積み上がりにくい。
ICHIGOは逆の道を選んだ。業務を自社で抱え、コストを抑え、浮いた分を商品の質に使う。ここが重要だ。安く売る競争ではなく、中身で選ばれる競争に資金を振り向けている。定期配送は解約されやすい。毎月の箱の満足度が、そのまま継続率に響く。だから品質への再投資は理にかなっている。
400万個の出荷が示す、定期配送の強み
累計約400万個という数字は、単発の売り切りでは出にくい。定期配送は、毎月の売上が読みやすい。仕入れ量も計画しやすく、菓子メーカーとの交渉でも有利になる。
似た構造は、国内の食品サブスクにも見られる。顧客の好みのデータがたまるほど、次の箱の中身を選ぶ精度が上がる。この循環が回り始めると、後発は追いつきにくい。内製化は、そのデータと現場感覚を自社に残す役割も果たしている。
顧客の約7割が米国という強みと弱み
187の国・地域に届けているのに、顧客の約7割は米国だ。この偏りには二つの顔がある。
良い面は、勝ちパターンが明確なことだ。米国向けの広告、梱包、配送日数の設計に力を集中できる。悪い面は、為替や関税、米国内の景気が悪化したときの打撃が大きいことだ。関税の引き上げが一度あれば、価格設計は大きく揺らぐ。
187という数字は、いわば保険の役割を持つ。小さな市場でも配送の経験を積んでおけば、次の主力市場を探すときに動きが速い。
物流の変化に強いのは、現場を知る会社
国際配送は、運賃の改定や通関ルールの変更が頻繁に起きる。外部任せだと、変更の影響を知るのが遅れがちだ。自社で出荷まで担っていれば、問題の兆しを早く見つけられる。
同社が社内体制の強化と運用改善で対応するとしたのも、この強みを使っているからだろう。ただし内製化には固定費という重荷が伴う。出荷量が落ちた局面では、人件費や倉庫費が経営を圧迫する。拡大期の戦略であって、万能ではない点は押さえておきたい。
ビジネスへの影響
自社で持つ業務と任せる業務を仕分ける
まず取り組むべきは、業務の棚卸しである。顧客の満足度に直結する工程は内製化を検討する価値がある。たとえば、梱包の質、商品の選定、顧客対応だ。一方、通関や幹線輸送のように専門性が高く、規模の経済が働く工程は外部に任せたほうがよい。
判断の目安は二つある。その工程の品質が、解約や口コミを左右するか。そして、自社で持っても固定費が重くなりすぎないか。この二点を数字で確認してから決めたい。
集中と分散の比率をあらかじめ決めておく
特定の国に売上が偏るのは、効率の面では悪くない。しかし上限を決めておくと安全だ。たとえば、一国の比率が七割を超えたら、次の市場に広告費の一部を回すといったルールである。
小さく試す市場を二、三か所持つだけでも違う。配送料や関税の試算、現地の口コミ調査を先にやっておけば、有事に切り替えやすい。
定期配送を始める小規模事業者への示唆
中小企業が真似するなら、まず少量の定期便から始めるのがよい。内容を毎回少しずつ変え、顧客の反応を記録する。この記録が、次の商品選びの精度を高める資産になる。
内製化は一気に進めず、出荷量が安定してから段階的に広げるのが現実的だ。品質への再投資を先に約束しておくと、値下げ競争に巻き込まれにくくなる。