威海市の越境EC拡大に学ぶ、物流と観光を結ぶ戦略
ニュースの概要
中国・山東省の威海市が、日本や韓国に近い立地を生かし、越境ECの物流と小売の機能を一体で強めている。韓国向けの物流拠点を整え、越境ECの事業者が使う集約倉庫(=複数の荷主の荷物をまとめて預かる倉庫)も改善した。さらに観光地や商業施設で、旅行者の買い物を越境ECの販売につなげる取り組みも進める。2026年上半期の越境EC輸出入額は約60億元で、山東省内4位となった。市内の関連企業は1,000社を超える。大都市ではない港湾都市が、地理と観光を組み合わせて存在感を高めている。
引用元: 中国・威海市、物流拠点と観光消費を組み合わせ越境ECを拡大(PRNewswire / Yonhap News Agency)
分析・見解
距離の近さを、翌日届く商品力に変えた発想
威海市は山東半島の先端にあり、韓国の仁川まで海を挟んで約400キロしかない。この近さは、越境ECでは送料と日数の両方に効く。韓国向けの荷物は、上海や広州を経由せず、地元の倉庫から短い海路で届けられる。日数が短ければ、生鮮に近い食品や化粧品のように、鮮度や在庫回転が重要な商品も扱いやすくなる。
大都市は人件費も地代も高く、倉庫の確保が難しい。威海のような中規模の港湾都市は、そこに差をつけられる。つまり、規模で勝てない都市が、距離とコストで勝つという構図である。
観光客の買い物をオンライン販売の入口に使う
今回の取り組みで目を引くのは、観光地や商業施設を越境ECの売り場として使う点である。旅行者はその場で商品を見て、気に入れば帰国後も同じ店から注文できる。実店舗は在庫を持たない見本市のような役割を果たし、購入の不安を減らす。
日本でも、訪日客が店頭で試した化粧品を帰国後に公式サイトで買い直す動きがある。威海の場合は、これを自治体が場所づくりから支えている点が違う。店舗、倉庫、通関が一つの流れでつながるほど、買い手は手間を感じにくくなる。
取引額60億元の中身を冷静に見る
約60億元は、日本円で1,200億円前後に当たる。山東省内で4位という順位は、威海が急成長しているという意味と同時に、上位3都市との差がまだあるという意味も持つ。上位の青島などは、港の規模や産業の集積が桁違いである。
関連企業が1,000社を超えるという数字も、売上の大きい企業が多いことを示すとは限らない。小規模な事業者が数多く参入している可能性が高く、収益を安定させる力は未知数である。数字の大きさより、リピート率や1件あたりの利益を見る必要がある。
地方都市モデルが広がる条件と限界
この方式は、他の都市にも広げられる可能性がある。ただし、韓国という近い大市場が隣にあることが前提で、どこでも再現できるわけではない。通関の手続きを簡単にする制度や、倉庫の運営を担う民間事業者の存在も欠かせない。
今後は、韓国側の関税や安全基準の変更が成否を左右する。中国国内の他の港湾都市も、同じ発想で追随するだろう。差別化を保つには、物流の速さに加えて、売る商品の独自性が問われる段階に入る。
ビジネスへの影響
日本企業が最初に確かめたい三つの数字
日本から中国や韓国へ越境ECで売る企業は、威海のような地方拠点を物流の選択肢に加えて検討する価値がある。まず見るべきは、現在の配送日数、1件あたりの送料、返品率の三つである。威海経由で日数が2日縮み、送料が一割下がるなら、利益率は大きく変わる。
韓国向けの販売では、日本から直接発送する場合と、中国の集約倉庫を経由する場合を比べるとよい。取扱量が少ないうちは直送が安く、月に数千件を超えると集約倉庫が有利になる場合が多い。自社の件数がどこにあるかを、先に把握しておきたい。
実店舗とオンラインを結ぶ設計を小さく試す
観光地での体験をオンライン販売につなげる発想は、日本の中小企業にも応用できる。たとえば、観光地の店頭にQRコードを置き、帰国後の再購入先を案内するだけでも効果がある。大きな投資は要らない。
最初は一つの商品、一つの店舗で試し、再購入の比率を3か月ほど記録する。比率が1割を超えるなら、対象を広げる根拠になる。逆に伸びなければ、商品の選び方か、案内の仕方を見直せばよい。
注意したいのは、輸出先の規制である。化粧品や食品は、国ごとに表示や届出の決まりが異なる。事前に確認せず出荷すると、税関で止まることもある。制度の確認を最初の工程に置くことが、結局は最短の近道になる。